■腸内細菌のバランスの崩れが自己免疫疾患につながる? - 理研が発表 ― 2012年05月09日
腸内細菌のバランスの崩れが自己免疫疾患につながる? - 理研が発表
理研免疫・アレルギー科学総合研究センター粘膜免疫研究チームのSIDONIA FAGARASAN チームリーダーらの研究グループが、米科学雑誌「Science」4月27日号に発表したところによれば、免疫系を抑える機能を持つ免疫抑制受容体「PD-1(programmed cell death-1)」が、腸管免疫に重要な影響を及ぼす腸内細菌の構成を制御していることを発見したという。
これまで研究チームは、「IgA抗体」が「善玉菌」と「悪玉菌」の構成を制御するという知見を報告している。
PD-1が欠損したマウスは、さまざまな自己免疫疾患を発症する一方で、その腸内細菌を除くと自己免疫疾患を発症しないこともあり、腸内細菌が自己免疫疾患に何らかの影響を及ぼしていることを示唆していたが、詳細はわかっていなかった。そこで、PD-1欠損マウスのIgA抗体の質と腸内細菌の構成を測定し、それらが自己免疫疾患にどのような影響を及ぼしているのか調べた結果、正常マウスとPD-1欠損マウスでは、腸内細菌の総数は同じだったが、その構成が変わっていた。PD-1欠損マウスでは、善玉菌のビフィズス菌が検出できないほど減少した一方、腸管内で本来増えることができない悪玉菌の「エンテロバクター属菌」が400倍にも増加していた。
このような構成が変わった理由を突き止めるために、IgA抗体の質と量を調べた結果、IgA抗体を産生するB細胞は、正常マウスとPD-1欠損マウスでほぼ同数で、腸管内に分泌されているIgA抗体の量も同じであったが、PD-1欠損マウスのIgA抗体は、腸内細菌に結合する力が弱いことが判明した。
次に、その結合力の低下の理由を調べるため、リンパ球などの免疫細胞が集合して小腸内に作るリンパ組織「パイエル板」にあるB細胞やT細胞の調査を行った結果、「PD-1欠損マウス」は、パイエル板の胚中心が大きくなり、その中の「ヘルパーT細胞」の数が3倍も増加していた。その結果、増加した「ヘルパーT細胞」が「B細胞」に過剰に働きかけ、本来ならば除かれるべき「できの悪い」B細胞が生き残った結果、結合力が弱いIgA抗体が腸管内腔に分泌されていることが判った。
続いて、腸内細菌の構成の変化と全身の免疫系との関係が調べられた。「PD-1欠損マウス」は、「正常マウス」に比べ炎症性の「サイトカイン」を産生する「ヘルパーT細胞」が4倍に増加していること、正常な状態では現れない胚中心が腸管以外のリンパ節に存在し、T細胞やB細胞の数もそれぞれ2.5倍と2倍に増えていることが判った。
また、通常は腸管でしか見られないはずの腸内細菌に対する抗体を血液中からも検出したことから、「PD-1欠損マウス」は全身の免疫系が過剰に活性化していることが明らかになった。
PD-1欠損マウスに抗生物質を投与して、構成変化後の腸内細菌を除くと過剰な活性化が治まったことから、腸内細菌の構成が不適切になると、全身の免疫系の過剰な活性化につながることも確認されたのである。
今回の研究では、「PD-1」が「IgA抗体」の質を制御して腸内環境のバランスを保っていることが判明した。また、「IgA抗体」の結合力低下が引き起こす腸内環境のアンバランスな状態は、全身の免疫系の過剰な活性化につながることを明らかにし、自己免疫疾患などの病態を悪化させている可能性も示された。
注)サイトカインとは、細胞同士の情報伝達に関わるさまざまな生理活性を持つ可溶性タンパク質の総称で、さまざまな細胞から分泌され、標的細胞の増殖・分化・細胞死を誘導する。炎症性サイトカインは、体内への異物の侵入を受けて産生され、生体防御に関与する多種類の細胞に働きかけ、炎症反応を引き起こす。
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